音楽が語る物語 - サウンドテイルという表現形式について
2025年7月14日 01:36 | 音楽のこと

ピアノインストは、言葉を持たない。
けれど、ある時ふと、音の中に物語や風景を浮かび上がらせる瞬間がある。
ひとつの旋律が、何かを思い出させる。
一音の揺らぎが、誰かの面影を呼び起こす。
私はそんな音楽の力に魅せられてきました。
そして辿り着いたのが、「サウンドテイル(Sound Tale)」という、音楽のかたちです。
サウンドテイルとは何か
Sound Tale。それは直訳すれば「音の物語」。
私が提唱するこの言葉には、音楽そのものが"語り部"であるという想いを込めています。
セリフや登場人物、ナレーションはありません。
それでも、音だけでストーリーが紡がれ、感情が伝わってくる。
そうした体験こそが、私の音楽制作の原点であり、サウンドテイルの核なのです。
『瞬景』というサウンドテイルの第一章
2025年7月30日にリリースするセカンドアルバム『瞬景』は、まさにサウンドテイルとしての作品です。
このアルバムには、私が長い時間をかけて向き合ってきた「喪失」と「再生」の物語が込められています。
亡き娘との記憶や、日々の暮らしの中で感じた哀しみと癒し----
それらを、言葉ではなく、ピアノの音で丁寧に描きました。
アルバムはまるで小説のように構成されています。
冒頭からラストに至るまで、すべての曲が物語の「章」となっていて、
それぞれが感情のうねりや風景を象徴するように配置されています。
特に、最後の2曲「PHOENIX」から「REUNION」へと繋がる流れには、
深い絶望の先にある小さな光と、祈りにも似た希望の気配を託しました。
聴き終えたとき、物語のラストページを閉じるような静かな余韻が、あなたの中に残ってくれることを願っています。
サウンドテイルで実現する新しい「癒し」
「瞬景」で音で語られる物語は、私の物語。
しかし、十分に確保された曲間、楽曲の余白、そういった部分に、「言葉を供わないからこそ」重ねることができる、「聞き手の物語」があります。
それは百人いたら百通りの物語。
私自身の物語を拠り所に、聞き手が展開する物語を自由に展開することで、
従来の「癒し系音楽(聴いていて心地の良い音楽)」の枠を超え、アルバムそのものがその人の歩み自体に寄り添い、時には背中を支えることができる、
今の時代だからこそ活きてくる新たな癒しが成立するのではないか、という理念に基づき、この構想を提唱します。
音楽が主役、映像や言葉はあくまで補助
最近では、映像や歌詞が物語をリードする作品も多くなっています。
もちろんそれも素晴らしい表現ですが、サウンドテイルは「主軸を音におき、物語を完結させる」ことに挑戦しています。
映像や文章は、あくまで補足的な要素。
本当の主役は、音そのものです。
その分、聴く人の想像力が試されるかもしれません。
けれどだからこそ、聴くたびに違った情景が見えてきたり、心の深いところに触れてくるのだと信じています。
誰かの心に残る、もうひとつの物語へ
サウンドテイルは、私にとって「癒し」であり「祈り」でもあります。
そしてそれが、誰かの心の景色と重なり、別の物語として息づいていくのなら、
こんなに嬉しいことはありません。
アルバム『瞬景』を聴いてくださった方が、
それぞれの心の中で、自分自身の"Sound Tale"を紡いでくださることを願っています。
音楽は、語らずして語る。
その静かな語りに、どうか耳を澄ませてください。
DAKOKU